不思議を科学する

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なぜマグロの身は赤くタイの身は白いのか

 骨格を持つ動物の筋肉は、骨格筋と内臓筋に大別されます。骨格筋は骨格についていて,身体を支え動かす筋肉で、さらに遅筋と速筋に分けることができます。赤く見えるため赤筋とも呼ばれるのが遅筋で、白っぽく見えるため白筋とも呼ばれるのが速筋です。

 遅筋はゆっくり収縮し疲れにくい筋肉で、長い間収縮し続けることができます。ただし、瞬間的に大きな力を出すのには向いていません。

 マグロやカツオなどの回遊魚は常時泳ぎ続けています。起きているときだけでなく、寝ているときも泳ぐのを止めません。

 エラに直接海水を取り入れて呼吸をする他の魚と違って、マグロやカツオは泳ぐことによって口から取り入れた海水をエラに送ることによって呼吸をしています。そのため止まるとエラで呼吸ができなくなり、死んでしまうのです。また浮袋を持っていないので泳ぐのを止めると沈んでしまいます。ずっと泳ぎ続けているということは使うエネルギーも多くなるので、たくさんの餌を食べる必要があります。

 生まれてから死ぬまで泳ぎ続けているマグロやカツオは、持久力のある遅筋が発達しています。これらの魚の身が赤いのは、遅筋の色です。遅筋が赤いのは、血液色素タンパク質であるヘモグロビンと筋肉色素タンパク質であるミオグロビンの色によります。

 速筋は瞬間的に大きな力を出すことができますが、持久力がなく疲れやすい筋肉です。

 タイやヒラメなどの回遊しない魚は、普段は泳ぎ回らず、獲物をじっと待ち伏せをしています。見つけた獲物を捕まえるためには素早く動く必要があります。そのため、速筋が発達しています。回遊しない魚の身が白いのは、速筋の色です。速筋は色素タンパク質のミオグロビンが少ないので白い色をしています。

 サーモンピンクはサケの身の色から来た色名です。その名のようにサケの身は赤みがかっていますが、色は遅筋によるものではありません。サケは主な筋肉が速筋から成るためもともとは白身魚です。しかし、赤い色素であるカロテノイドの1種であるアスタキサンチンを含むカニやエビを食べることにより、その色素が蓄積しサーモンピンクになります。鮭の卵のイクラが赤いのも、アスタキサンチンの色によるものです。

 普段何気なく食べている魚ですが、その身の色からその魚なの行動や餌を想像してみると、また違った味がするかもしれません。

 

参考文献

稲場秀明、色と光のはなし、技報堂出版(2017)