ナマコはウニやヒトデと同じ棘皮動物(きょくひどうぶつ)の一種です。見た目がグロテスクで、とても食材になるとは思えません。夏目漱石が著書の『我輩は猫である』の中で、「はじめてなまこを食べた人の勇気や精神力には敬服するべきだ」と書いていますが、まさにそのとおりです。
無味乾燥でつまらない様子を「砂を噛むような」と言いますが、ナマコは本当に砂を噛む一生を送っています。砂を食べ、砂についているわずかばかりのバクテリアや有機物を栄養としています。それらは決して栄養価が高いものではありません。そのため、エネルギー消費量が同じ体の大きさの哺乳類と比べると1/100程度と、超省エネで生きています。
海底の砂の上に住んでいるので周りは食料だらけなわけですから、食べものに困ることはありません。食べ物を探して動き回る必要がないので、動きはとてもゆっくりです。そのため筋肉もわずかしかありません。ほとんどが皮ばかりでできているので、捕食動物からすると魅力を感じる餌ではありません。触ると体の皮を堅くし防御することができるうえ、サポニンという毒を持っているので、捕食者から襲われることがほとんどありません。
多くの動物は、エサを探して動き回ることに一日の内の大半の時間を費やしています。また、効率よくエサを探すために視覚、聴覚、嗅覚などの高度な感覚器官をもっています。さらにエサを探し捉えるためには高い運動能力が必要であり、たくさんの筋肉を備えています。これらの感覚器官や筋肉はエネルギーを大量に消費します。
つまり、エサを得るためにとても多くのエネルギーを消費しており、そのエネルギーを確保するためにさらにたくさんの餌を求めているのです。なんだかばかげたことをしているようにさえ思われます。
このような動物の行動は長距離を飛ぶ航空機を思い起こさせます。
航空機は車に比べて燃費が悪く、長距離を飛行するのに大量の燃料が必要です。重たい燃料を積んで飛行すると余分な燃料をたくさん消費します。そのためさらに多くの燃料を積み込みます。動物は長距離を飛ぶ飛行機と同じようなことをしているのです。
ナマコはほとんど動かないで、近くにある食べ物をとって生きています。そのため消費するエネルギーが極めて少ないので、栄養価の低い食べ物でも生きていけるのです。それは一つの合理的な生き方のようにも考えられます。