ハエトリソウの葉は緑色をしており、葉緑素による光合成で養分を作り出しています。ただ、やせた土地でも育つことができるように、ハエなどの虫を捕まえて足りない養分を補いながら成長する食虫植物です。
貝殻のような形をした捕虫葉の周辺にはトゲが並んでいます。このトゲとは別に、葉の内側には3本ずつ生えている小さなトゲが感覚毛です。葉にとまった虫がこの感覚毛に触れると、開いている葉を閉じて虫を捕獲します。閉じるのに要する時間はわずか0.5秒の素早さで、葉にとまっている虫は逃げることができません。
この感覚毛には不思議な特性があります。1回触れただけでは閉じないのです。30秒以内に2回触れるとその瞬間に閉じます。虫が触れたのではなく、ごみが落ちてきたり、他の葉が触れたりした場合などのように、1回だけの接触では閉じないようにしているのです。また、2回触れたということは虫が捕虫葉の奥まで入っているということなので、この時に閉じる方が確実に捕まえることができます。
基礎生物学研究所のSudaらは、ハエトリソウの葉を閉じる仕組みを明らかにしました。それによると細胞内のカリウムイオン濃度を変化させ細胞を収縮させることによって葉を閉じているということです。
この葉を閉じる動きにはそれなりのエネルギーが必要であり、ハエトリソウにとってはかなりの負担です。そのため、虫が入ったのではないのに誤って閉じたり、虫がまだ奥まで入っておらず逃げられてしまったりしないようにしているのです。
ハエトリソウが感覚毛に2回触れたときに葉を閉じるというやり方は、子供の頃の釣りを思い出させます。小学生のとき、近くのため池でよく釣りをしました。釣り竿は、近所の竹やぶに生えているタケを切って作った簡単なものでした。釣れるのはフナです。フナが餌をつつくとウキが沈みます。ウキが沈んだからと言って慌ててすぐに竿を挙げるとたいていは逃げられてしまいます。まだ餌に十分に食いついていないからです。逃すことの方が多いのですが、最もよく釣り上げることができたのは、2度目に強くひいた瞬間に竿を挙げたときでした。
何事も慌てるとよくありません。いざというタイミングを逃さないように、気持ちを落ち着け、じっと待つことが大切なようです。
参考文献
Hiraku Suda, et al., Calcium dynamics during trap closure visualized in transgenic Venus flytrap, Nature Plants(2020)