夜中に目が覚めたとき、今何時かなと枕もとの時計を見ると、真っ暗な中でも時計は時刻を教えてくれます。文字盤と針がうっすらと光っているからです。
この時計の文字盤や針には蓄光塗料(夜光塗料)が塗られています。暗闇の中で淡く光っているのが燐光(蓄光)です。蓄光塗料は時計だけでなく、キーホルダー、アクセサリー、ネイルなどにも使われていますので、ときどき目にすることがあると思います。
電気がなくても、蓄光塗料が光るのはなぜでしょうか。
蓄光塗料の中で燐光を出しているのは蓄光性蛍光体と呼ばれるものです。おもにはアルミン酸ストロンチウムが使われています。アルミン酸ストロンチウムを使った蓄光塗料は、1993年に開発されました。従来のものよりおよそ10倍明るく、10倍長く光るので、広く使われるようになりました。
蓄光塗料とよく似たものに蛍光塗料があります。蛍光塗料には蛍光物質が含まれており、明るいときに紫外線や青色の光を吸収し、そのエネルギーをすぐに光として放出します。これが蛍光です。蛍光物質を含む蛍光ペンや蛍光テープは、可視光を反射させるのと同時に、紫外線などを吸収して可視光として発光するので、他の物より反射する光の量が多くなり、より明るく感じられるのです。そのため、注意を引きたい所や目立たせたい所によく利用されています。
一方、蓄光塗料には紫外線や青色光を吸収し、エネルギーとして蓄えます。そして蓄えたエネルギーを、時間をかけてゆっくりと光として放出します。これが燐光です。緑色の光を発光するものが一般的で、長いものでは10時間以上光っているものもあります。したがって蓄光塗料は長時間光を当てないでいると光らなくなりますが、光を当てればまた光るようになります。
蓄光塗料は蓄えたエネルギーをゆっくり放出するため、その光は弱く、暗い中でないと光っていることが分かりません。強く光らせたい場合は電気を使った光源を使う必要があります。
蓄光塗料は時計やアクセサリーだけでなく、災害時にも役立っています。地震などで停電し、明かりが消えると避難が困難です。こんな時に蓄光テープ(蓄光塗料を含む粘着テープ)を貼った避難誘導標識が逃げる方向を教えてくれます。また階段のステップや手すりにも蓄光テープが貼られていると、暗い中でつまずかずに非難することができます。
参考文献
村山義彦、新しい蓄光性材料の進展、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan(2004)