不思議を科学する

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鳥の目は「鳥の目」ではない

 「鳥の目」とは、高い位置から俯瞰的に全体を見ることを指す言葉です。細かいところにこだわるのではなく、広い視野を持つことの重要性を示唆しています。

 しかし、実際の鳥の目は、どうも「鳥の目」ではないようです。

頻繁に発生するバードストライクが社会問題となっています。バードストライクは、鳥が建築物などに衝突することやそれが原因で発生する事故のことを言います。

 近年、地球の環境問題を考慮して大型の風力発電機が全国的に増えています。それにつれて鳥が風車の羽根に衝突するバードストライクも増加しています。高い視力をもつ猛禽類でも、高さ100メートルを超える巨大な風力発電機の風車に衝突することがあります。特に国の天然記念物のオジロワシが衝突して死亡することが問題となっています。猛禽類が地上の獲物を探している時は前方をあまり見ていないからではないかといわれています。

 また鳥が航空機に衝突することも問題となっています。2009年、ニューヨークにおいてUSエアウェイズ航空機がラガーディア空港を離陸直後に2台のジェットエンジンが停止した結果,ハドソン川に不時着水する事故が発生しました。2台のエンジンからは鳥を吸い込んだ痕跡が確認されています。このような事故に至らなくてもエンジンを損傷することはしばしば起きています。特に海上空港では海鳥による被害が多発しています。このため毎日見回り(バードパトロール)をして、散弾銃の空砲を撃ったり、鳥の嫌がる音をスピーカーから流したりして、空港周辺にいる鳥を追い払っています。バードパトロールは空港管理者の仕事の一つになっています。

 風力発電機も航空機も十分に大きいので、視力のいい鳥にとって遠くから見つけることはなんでもないはずです。気を付けて見てさえいれば、避ける余裕はあります。それなのにバードストライクが起きるということはどういうことでしょうか。

 空を飛ぶ鳥は地上の細かいところに気を取られ、正面をあまり見ていないようです。そのため風力発電機や飛行機などの障害物が目に入らないということが起きるのかもしれません。

 風力発電機や航空機が使われるようになって100年あまり。平坦な地上や海上にこれらの障害物が突然現れることを鳥は予想していないようです。これらの障害物の存在にまだ適応できていないのかもしれません。

 このように鳥は見落としが多く、周りを俯瞰的に見るのが得意ではありません。鳥の目は「鳥の目」ではないのです。